計算ミスは、単純なミスだと思いがちです。
直そうと思えばいつでも直せると思いがちです。
でも、けっしてそうではありません。なぜなら、計算ミスをする子は決まっているからです。
しない子は、ほとんどしません。それは、成績のよしあしとはあまり関係がありません。たとえ成績は悪くても、計算ミスをしない子はいるのです。
では、計算ミスをする子は、なぜ計算ミスをしてしまうのか。
わたしが原因として考えているのは、次の一点です。
なぜかいつも、急いでいる。
彼らはなぜかいつも、急いでいます。歯医者の予約とか、友だちとの約束といった、明確な理由があるわけではありません。けれども、いつも急いでいるのです。
急いでいるので、次のようなことが起こります。
①字をていねいに書かない
字をていねいに書かないので、筆算の途中などで自分の字を読みまちがえるということが、ひんぱんに起こります。
6と0の区別がつかない。4と9の区別がつかない。7と9の区別がつかない。
彼らは「自分の字なのだから、見まちがうはずがない」と考えています。けれども急いでいますから、区別のつきにくい字があると深く考えずに直感で読んでしまって、結局まちがえてしまいます。
字がていねいでないだけならまだよいのですが、とにかく急いでいるので、筆算の縦の列や横の列をそろえることができません。そろえて書く、その一手間と時間が惜しいのです。そのため、だんだん筆算が横にずれてきます。
そうなるともう、解読は不可能です。どの数字とどの数字をたすのかひくのか、小数点はどこに打つのか、いったい自分が何をしようとしているのかさえ、わからなくなります。
②問題文を読み間違う
なぜか、問題文とは異なる数字を使って式を立てる子が一定数います。問題文のとおりに式を立てると35+7になるはずが、37+5になっている。116-70になるはずが117-60になっている。
厳密に言えば計算ミスではないのですが、答えがあわないということでいえば、計算ミスのひとつになります。
数字を取り違えてしまうと、答えは絶対に合いません。見直しをすればすむ話なのですが、急いでいるのでその時間がありません。
③九九をまちがえる
九九は自由自在に使えなければなりません。しかも、正確でなければなりません。なのに、そこまで到達できていない。
ならば、ゆっくり九九を思い出しながら計算すればよいのです。けれども、空欄をうめることばかりに意識がいっているので、急いで適当な数字を書いてしまいます。
④途中の計算式を書かない
途中の計算式を書かない子が多いのには、驚かされます。頭でわかっているから書くのがめんどう・・・と思っているのですが、結果的に計算をまちがえてしまいます。
答えさえ合えば計算式は必要ないと思われるかもしれませんが、計算式を書かないと、自分の思考の過程がわかりません。
途中の計算式を書くということは、考え方を可視化することです。考え方が見えることで、まちがいに気づいたり、よりよい考え方をひらめいたりする。計算式は、貴重な思考の訓練なのです。
⑤思い込みを正すことができない
計算ミスをするお子さんはたいてい、「なんでまちがっているの」「ぼくは(わたしは)合っている」と強い口調で申告してきます。
まちがいを認めると、やり直しに時間がかかってしまうからです。その時間がもったいない、と考えているのです。けれども、そう言ってくる間に素直な気持ちで見直せば、すぐに直せるはずなのです。
まちがいを自分でただせる子は、その後、伸びていきます。
けれども、自分は正しいと思い込んでいるあいだは、絶対に伸びません。大人だって、おなじことです。
なぜ彼らは急いでいるのか
以上のように、急いでいると必ず計算ミスが起こります。
本当に歯医者の予約があり、たまたま急いでいてまちがえるのなら仕方がありません。焦って失敗するのは子どもばかりではないからです。
しかし、喫緊の予定がない彼らはなぜいつも急いでいるのか。それだけでは足りなくて、「先生早くして」と、なぜ人までせかしにかかるのか。
あくまでわたしの仮説ですが、彼らはいつも家で「早く早く」と急がされているのではないでしょうか。
いち早くゴールに到達することだけに集中していて「今、ここ」に意識がないので、落ち着いて勉強に取り組むことができない。すべてが雑になる。結果的に、考える力もなくなっていきます。
長い人生のうちには、早さに価値が置かれる場面はいくつもあると思います。けれども、せめて子どものうちは、何事もゆっくりじっくりと取り組んでもよいのではないでしょうか。いつか子どもは、失敗をくり返しながら、必要な場面で早く行動することを覚えていきます。
だから、計算ミスをなくすいちばんの方法は、生活の中で「早く」と言わないことだと思っています。
あともうひとつ。
子どもは計算ミスをもったいないなんて、思っていません。もったいないと考えるのは、テストの結果を気にしている親だけなのです。もし、ゆっくりじっくり取り組んでも計算ミスがなおらなければ、それは「もったいない」のではありません。残念ながら、それがその子の「実力」なのです。
最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。